介護事業所がマネジメント能力を向上させるべき3つの理由

近年、私たちの働く環境が大きく変わり始めています。
政府が副業を積極的に推奨するようになり、より一層に私たちには多様な働き方が求められるようになってきました。
これだけ日本経済が衰退傾向にある中で、クリエイティビティを発揮してインパクトのある事業所になっていくことが急務であると同時に、それらを実現するためには、組織力を向上させることこそが事業を継続していく唯一の道と言っても過言ではありません。
そのために、介護事業所がマネジメント能力を向上させることが急務なのです。
では、今から介護事業所におけるマネジメント能力を向上させるべき3つの理由をお伝えします。

【1】スタッフは、「安心感」を求めている

一度働いたら定年まで一つの会社で勤め上げる終身雇用制が崩壊した今、会社に求めていた安心感が消え去りました。その結果として、私たちは「身近な人」に安心感を求めるようになりました。

「身近な人」というのは、職場においてはまさに中間管理職のことです。
中間管理職であるリーダーに対して、スタッフである彼らは「安心感」を求めるようになってきています。
つまり、中間管理職であるリーダー層が、マネジメントについてしっかりと深い学びを得て、それを組織の中で体現していく能力が求められているのです。

過去の経済を遡って、マネジメントの歴史を紐解いていくと、特に高度経済成長時代は物を作ればとにかく売れた時代だったので、管理だけをしておくことこそがマネジメントという定義でした。

しかし、先述の通り、これだけ市場が成熟し、衰退している最中、さらにグローバル化が進んでいる今日の日本経済において、よりインパクトのある事業所になるためには、クリエイティビティを発揮することがスタッフ一人ひとりに求められています。

クリエイティビティを発揮するためには、組織から徹底して「恐怖」を排除していく必要があります。
威圧的な態度でスタッフ同士のコミュニケーションが行われるようでは、とても安心して働くことなどできません。
チーム力を育むためには、安心感がある組織風土を構築することがとても重要です。
マネジメント能力を向上させるうえで、安心感とは組織の土台となることを忘れてはいけません。

【2】価値観の共有

まず、「マネジメントとは何か?」という問いに答えられるリーダーはとても優秀と言えます。
マネジメントと一言に言っても、その幅と深さは計り知れません。

たとえば、企業、スポーツ、教育などにおいて、それぞれのマネジメントにおける定義や価値観は全く異なることでしょう。
特に、私が今まで支援をしてきた中で最も大変だったのが学校教育の場です。なぜなら、学校には様々な価値観が存在するからです。
例えば、学力を向上させることが重要だと考える人もいれば、子どもらしくのびのびと生きる力を育むことが重要だと言う人もいるのです。しかも、それに関しての正解がないだけに、非常に難しいものでした。

一方、一般的な企業の場合ですと「売上を上げ、利益を出す」という点が主なので非常に分かりやすく、様々なフレームワークが使いやいのです。

このように、状況や立場によってマネジメントにおける定義は変わり、その重要度も全くもって異なります。
また、ほとんどのリーダーたちは、マネジメントというと「コミュニケーションマネジメント」のことを指しているケースがほとんどです。リーダーが正しく教育を受けていないが故にコミュニケーションマネジメントのことばかりに特化してしまった結果、介護事業所における価値観がバラバラなものになってしまうケースも珍しくありません。
しかし、組織におけるマネジメントとは、コミュニケーション以外にもたくさんあります。

  • プロジェクト総合マネジメント
  • スコープマネジメント
  • スケジュールマネジメント
  • コストマネジメント
  • クオリティマネジメント
  • リソースマネジメント
  • リスクマネジメント
  • 調達マネジメント
  • ステークホルダーマネジメント
  • コミュニケーションマネジメント

などが挙げられます。

これらは、どれもがプロジェクト化することができるもので、スタート〜終わりまでを評価することができます。
もちろん、結果だけでなく、プロセス評価・管理も可能です。

社内コミュニケーションとは、人体でいうならば血流そのものです。
血流が潤沢に循環しなければ体調不良を起こすのと同様に、組織不全を起こします。
まずは、社内コミュニケーションを充実させるために、一つひとつの取り組みをプロジェクト化し、適正なフィードバックを繰り返す中でようやく価値観の共有・浸透につながってきます。


【3】「感覚」と「経験」という暗黙知からの脱却

私は仕事柄、とても多くのリーダーたちと時間を共にします。その際、リーダーたちが感覚と経験の中だけでマネジメントやコミュニケーションを行なっている場面にたびたび遭遇します。
そのほとんどは、おそらく誰からもきちんと正しくマネジメントについて学ぶ機会がないままリーダーになってしまったことが大きな要因の一つと言えます。

私たちは、1日でも早く感覚と経験でマネジメントを行うことから脱却しなければなりません。
なぜなら、感覚と経験でマネジメントを行うことによって、将来的に大きな事故・過誤につながる種を植え付けていることになるからです。

たとえば、トロミをつけたお茶を提供すべく利用者さんがいるとします。しかし、それが感覚で指導をしてしまうことで、正しくトロミができずに「玉」ができてしまう可能性があり、誤嚥を起こしてしまうリスクが生まれます。
感覚でコミュニケーションを図ってしまうが故に過誤という悲劇が起こる種を植え付けることになるのです。

そうならないためにも、感覚と経験という暗黙知から脱却したマネジメントを図る必要があります。

そのためには、チームの中で共通言語化を図り、適切なマニュアル化を進めていく必要性があります。
残念ながら、リーダーになるべく教育を受けていない人がリーダーになってしまうと「しっかりやれ」だとか「正しく正確にやろう」などととても曖昧な言葉を使ってしまいがちです。
このような曖昧な言葉は、ミスコミュニケーションを生むことに繋がるだけでなく、事故・過誤に直結してしまうため、今すぐやめるべきです。

最後に【介護事業所におけるマネジメントの本質的理解】「安心」と「安全」の違い

介護現場では、よく「安心・安全」という言葉を耳にします。この言葉が法人理念になっている事業所にもたくさん出会ってきました。
しかし、もしかすると、この「安心」と「安全」では定義が全くもって変わることを理解されている方は多くないかもしれません。
結論から言うと、安心は感情であり、安全は論理です。

安心とは、人の感情を指します。
例えば、私は新幹線で移動する際に15分前には必ずホームに居たいと思っています。なぜなら、時間に余裕がある方が安心できるからです。しかし、人によっては3分前にホームに到着すれば良いと思っている人もいるでしょう。しかし、それでは安心できないのが私の感情なのです。これに正解不正解という概念は存在しません。

一方、安全というのは論理的です。
例えば、気温38度の炎天下でサッカーをやることはとても危険です。これは、38度=炎天下=危険という論理的なものになります。そこに感情は不要です。「私は38度の炎天下でサッカーをやったことがあるけど、体調不良を起こさなかったわ」という個人的な感情や価値観は一切不要なのです。

このように、現場では「安心・安全」という言葉が実は全く違う定義にも関わらず、同系列で並べられてしまうが故に、ミスコミュニケーションを生むことにつながってしまいます。

安心は感情であり、安全は論理です。

これらの「感情」と「論理」を知的に理解することこそがコミュニケーションマネジメントにおいて最も重要なことであり、豊かな組織作りの第一歩になります。
どちらかに偏りすぎてもいけません。感情と論理は表裏一体なのでバランスを取ることが大切です。

今一度、マネジメントとは何か、そして何をもってプロジェクトの「成果」と「プロセス」をそれぞれ評価するのかをしっかりと考え、実行していくこと、つまり「組織力」を向上させることが急務なのです。

そのために、とにかく社内から恐怖を取り除き、誰もが安心できる環境を作ることがスタートです。
感情と論理のバランスの取れた組織こそ、衰退から脱却し新たな成長カーブを描き、インパクトのあるカンパニーへと成長することができると言えます。