2024年9月2日(月)より、SOMPOケア株式会社が運営する、「人間」と「テクノロジー」の共生による新しい介護のあり方を創造するリビングラボ「Future Care Lab in Japan」にて、未来の介護事業モデル『2030年から問う介護』の展示が始まりました。Future Care Lab in Japan 副所長兼主任研究員 芳賀 沙織さんに現地で案内してもらい、お話を聞いてきました。介護事業所の方々の生の声や思いが詰まったお話でしたので、是非ご覧ください。

「2030年から問う介護」とは

今回の展示では、「介護」について介護事業者の皆様と共に考える機会として、未来の介護のありかたを4つのテーマ紹介、これまで既に約200名の事業所の方々にご来場いただいています。その中でも来場者の関心を最も集めているのが、ブライト・ヴィーとFuture Care Lab in Japanが共同開発した「職員が記録しない介護記録~記録するための業務時間を極限まで減らす~」のモックアプリです。

ブライト・ヴィーがFuture Care Lab in Japanと共にモックアプリを参考展示|ニュース|トライトグループ(TRYT Inc.)企業サイト (tryt-group.co.jp)

今回の展示について

Future Care Lab in Japan 副所長兼主任研究員 芳賀 沙織さん

―芳賀さん、今回の展示の目的を改めて教えてください。

(芳賀さん)本展示では、2030年という遠くない未来の介護現場をシミュレーションし、どんな介護テクノロジーを導入するかではなく、介護で何を当たり前にしていくのか、何を残して何を変えていくのかについて、介護事業所の皆さんと意見交換し合う場として開発しました。

「テクノロジー」という言葉を聞くと、システムやAI等、最新技術を連想される方も多いと思いますが、Future Care Lab in Japanでは、新しい技術だけでなく、車いす等の既存の技術やバリアフリーの環境構築も含めて、介護現場をより良くし、長く活用し続けられるものをすべて「テクノロジー」と考えています。介護事業者様に対し、テクノロジーの活用によって実現する介護業界の未来について考えていただけるよう、固定概念にとらわれないさまざまな企画を展開しています。

4つのテーマについて

―ここから4つのテーマをご説明お願いします!

展示テーマ① ひろがる、介護施設の可能性。

(芳賀さん)介護施設が開かれているかについて、介護事業者の皆さんにアンケートを取ったところ、約8割の介護事業者様が「開かれていない」と答えています。本来、介護施設は地域連携を強め、住民の皆さんと相互に生活をサポートできるような環境でありたいと思っている一方、新型コロナウイルスの流行もあり建物自体が閉鎖的で、安全配慮の観点からなかなか開かれていない場所になってしまっているのが現状です。

そこで、2030年の介護施設ではそのイメージを脱却し、ご利用者様や介護職員様の生活・仕事を後押しし、根源的な生きる活力を支援する場にするために、以下の五つの観点で介護現場の環境づくりを進めていきたいと考えています。

  1. 選択肢のある生活
  2. ささやかな日々の幸せや楽しみを味わう
  3. 介護職員の働きがいと機能性
  4. 場所の特性を活かし社会とつながる
  5. 利用者の安全性と自由の両立

開かれた介護施設について、国立大学法人東北大学とプラナス株式会社が共同開発した模型

例えば、介護施設内で、利用者様や介護職員、周辺にお住まいの方が一緒に食事のできるスペースを作ったり、介護施設間で移動し旅行体験ができるようにしたり…「開かれた介護施設」を想像すると、さまざまなアイデアが出てくると思います。介護現場では今どのような問題があって、その問題をどう解決していきたいか、その先にどんな介護の姿でありたいかを柔軟に想像していただきたいと考えています。

展示テーマ② 快適な暮らしを考える。

(芳賀さん)2030年の介護施設の居室は、ベッドが置かれたままの寝るためだけの場所ではなく、人との交流や趣味を楽しめるような利用者様が個別性のある生活を快適に過ごせる場所にしていきたいと思い、ソファに変形するベッドをパラマウントベッドさんと一緒に開発しています。実はこの問題提起は、介護職を目指す学生さんからの「なぜ介護施設の居室にはベッドが置きっぱなしなのか」という問いから生まれました。私自身も学生時代、同じように感じたことがあり、20年経ても解決されていない問題でしたので、日頃当たり前だと思っている環境から少し視点を変えることが重要だと改めて気づきました。

パラマウントベッド社が開発した、介護用ベッドを活かした快適な環境

展示テーマ③ 職員が記録しない介護記録 
(ブライト・ヴィーとFuture Care Lab in Japanとの共同開発

(芳賀さん)このテーマは、介護記録をするためだけの時間を極限まで減らしたいと考え、「ケアに活かせる記録とは何か」について、ブライト・ヴィーの飯田さんと検討を進めました。特に、記録する必要のある内容を整理した上で、食事や排泄、転倒記録等、介護職員が目視やイメージで記録していたものを自動化することで、正確に利用者様の状況や状態を把握できるようにしていきたいと考えています。

介護居室の入口には、利用者様の食事、排泄、バイタル等のデータが一度に確認できるタブレットを設置。普段は居室の表札として使うことができる。

介護事業者様から多く声が寄せられたのは、「今まで慣習的にやっていた業務を、ここまで減らす判断が難しい」という意見です。業務効率化によって介護職員が働きやすくなるメリットがある一方で、介護職員同士のコミュニケーションの難しさが出てくる可能性も考慮しなければなりません。このテーマはあくまで介護事業者様と未来の介護を議論するための考え方の一つですので、介護事業者様のご意見をもとに、より良いものへブラッシュアップしていきたいです。

―この展示は、ブライト・ヴィーとの共同開発でしたが、開発のきっかけは何でしたか?

(芳賀さん)4、5年前に飯田さんが、「介護記録っていずれは入力するものではなくなっていると思う」と仰っていたことが印象的で、それがこの企画設計のスタートだったと思います。ブライト・ヴィーは未来を見据え、当たり前にやっていること、を見直して、将来どうありたいかを議論できる、そんな貴重なパートナー企業です。

(飯田)介護記録は、介護保険開始からの24年間で大きく変化しました。良くなった点が大部分ですが、システムベンダー間の製品競争の中で、記録しなくて良いもの、つまりは後に活用しない情報を記録している可能性に着目していました。明日の介護に活用できる情報を可能な限りセンサーで自動記録し、介護従事者の皆さんが介護記録に苦労しない未来を作りたいと考え、芳賀さんと数年間、議論を重ねてきました。Future Care Lab in Japanは、一企業の枠を越え、文字通り日本介護の未来を切り開くチームであり、私達ブライト・ヴィーも新しい発想や多くの気づきをいただいています。

(左写真:左から、ブライト・ヴィー飯田、FCL芳賀さん)
(右写真:左から、FCL芳賀さん、ブライト・ヴィー飯田)

展示テーマ④ 働き手はどんな職場を選ぶか?

(芳賀さん)介護職員が最適なパフォーマンスを発揮し、介護業務以外の負担が軽減している状態こそが、働きやすい介護現場ではないかと考えます。介護職員のパフォーマンスを高めるために、室内の匂いを吸収する建材や、太陽光に似た光源、介護職員の腰の負担を計測するセンサー等、さまざまなテクノロジーを取り入れた職場環境を提案しています。

また、社会福祉法人 若竹大寿会様の事例として、スタッフを大切にした休憩室の設置によって、介護サービスの質向上を目指す取り組みを紹介しています。

(左写真内、上)室内の匂いを吸収する建材は、アート作品でもある。
(左写真内、下)介護職員様や利用者様の身体負担を考慮した、太陽光に近い照明
(右写真)社会福祉法人 若竹大寿会の介護施設にある介護職員専用の休憩室の様子

腰に巻いているベルトに内蔵されたセンサーによって、腰の負担が大きい業務を行った時間帯等のデータが記録される。

介護現場では、排泄や入浴介助等による身体的負担が多いといわれています。しかし、社会福祉法人 若竹大寿会様が実施された介護職員への介護負担に関するアンケートを見たところ、回答の上位には身体的負担は入っておらず、緊急対応やクレーム対応等、介護職員の心の負担が大きいことが分かりました。介護職員が身も心も安心した状態で働き続けるための対策を、テクノロジーの観点から検討する必要があると考えています。

社会福祉法人 若竹大寿会が介護職員様に実施した、働く上での負担アンケートの結果

11/6(水)『第2回 介護テクノロジーの創りかた・使われかた』開催!

今回の展示に携わった4テーマを中心としたシンポジウムが開催されます。お時間のある皆様は是非ご参加ください!

■日時:
2024年11月6日(水)14:00~18:00

■会場:
大崎ブライトコアホール※
(東京都品川区北品川5丁目5-15大崎ブライトコア 3F )
※Zoom ウェビナーによるリアルタイム配信あり

■主催:
SOMPOケア株式会社 Future Care Lab in Japan

■参加費:
無料(要事前登録)

■参加対象:
・介護テクノロジーの開発をしているスタートアップやベンチャー企業さま
・新規事業で介護テクノロジーの開発をしている企業さま
・介護事業者でDX を推進されている方 (オンラインでの参加のみとなります)

最後に

―今回の「2030年の介護を考える」展示企画を機に、Future Care Lab in Japanは介護業界にとってどのような存在でありたいと思いますか?
(芳賀さん)介護現場と開発企業とのHUBとなり、介護テクノロジーの開発・実装に山積する課題を解決する一助となる役割を果たしたいと考えています。
今回の展示も、2030年における介護業界の未来を模型にし、その模型を見た介護事業者様からたくさんの意見をいただいています。介護現場が目指す姿と、現状のギャップを見いだし、それをモノづくりの立場である開発企業にしっかりと伝えていくことで、介護現場の「こうだったらいいのにな」を実現に近付けられる存在でありたいと思います。そうすることで、ご利用者やご家族、介護職や介護に関わる人々、一人ひとりの生活を豊かにする社会の実現に寄与していきたいと考えております。

―芳賀さん、ありがとうございました!
皆さんは、5年後の介護業界がどうあると思いますか?その中で、今の私たちに何ができるのか、ぜひ考える機会にしていただけたら嬉しいです!